今日も、名も知らぬをんなの活けていつた花が、花瓶のなかで頸を傾けてゐる。をんなは此処の賄いであつたと記憶してゐる。
皮膚に透けたやうなあたたかな薄紅色の花である。今のおれに、果て、何のつもりであらうかと花と同じやうに、やつれて幾分細くなつた頸を傾げるのが、最近の自分の日課だ。
それにしても鬼魅がわろいのである。西日を受けていつさう花は紅く、丸でおのれのいのちを掏つたかのやうで、さういえば今日は大分吐いたなと、枕元の、紅く染まつたのを見た。
咽喉の奥にあるしこりが、血の臭いをしていて、息までもがなんだか腥いやうだ。幾度手を突込んで、打棄つてやらうかと思つたか知れぬ。爪の間に鉄のこびりついた手を水差しに伸ばした。咽喉を潤す感覚が久しい。
次いでゆつたりと実に緩慢に、振り返り手を伸ばして、花の頸をぷちりと爪でやると、ナンとまあ花瓶は色褪せてしまふものである。指先にこびりついた紅が拍子に花の茎について、嗚、丸で本当に血が流れてゐるやうで
水薬を
花瓶に棄てゝアザミ笑ふ
肺病の口から
血しほしたゝる
(猟奇歌 夢野久作)
(070617)
以前memoに載せたものを、転用しました。