沢山の、刀を差した侍の行列に、あの人が紛れて行ってしまったのはいつだったでしょうか。昔は歩かなければならなかった道も、今では二時間に一本、バスが通っています。天人の開発の手は、こんな田舎にも伸びています。それでも、ここの風景は、あの人がいた頃と変わっていません。広がる水田、あぜ道、古ぼけた民家、それから周りの山山、何も、何一つ変わっていません。
きっと帰ってくると、あの人は約束してくださった。恋人が戦地に赴くというのに、涙も流さない女を、どう思ったでしょう。それを知る術は、私にはありません。あの人は戻りませんでした。あんなに誓ったのに、この村へ、私の元へ、二度と帰って来なかったから。
恨む気持ちが、ないと言えば嘘になる。私は、嘘が嫌いです。嘘をついたあの人が憎らしいのです。それでもなお、待ち続ける私を、愚かだと思うでしょう。たった一人、冷たい布団にもぐりこむ夜の空しさよ。それでも、私は待っています。
いったい私は何を期待して待っているのだろう。あの人が帰ってきて、再び愛しあうなどという幻想は、とうの昔に見果てました。私を残して消えた男に、復讐を?いいえ、そんなこと、とても考えません。なら、どうして私は、こんな田舎で、まるで何かに縛られているように、朽ちるのを待つように生きているのだろう。染み付いていた、あの人の気配もすっかり薄れて、ただ重苦しく陰るばかりの家で、一人、ぼんやりと一日一日、夢を見るように生きているのはなぜなのだろう。
あの人が村を出るとき植えた百合が、今年五度目の花を咲かす。あの人が褒めてくださった髪は、もう腰に届くまでになりました。私は未練がましいのでしょうか。嘆くように項垂れる花は、長く伸ばした髪は、私の未練の証なのでしょうか。首に、肩に、纏わりつくようにだらだらと下ろされている、そんな風に、私はいまだ、あの人を忘れられていないのだろうか。
たとえば、戦争で命を落としたと伝えられれば、どんなにか楽だろう。あるいは、他にいい人が出来たと、言われたなら、どんなにましでしょうか。私は、もう疲れました。何もかも嫌になりました。それでも、私は待っています。どうか、どなたか、あの人に伝えてくださいまし。庭に植えた百合の、花の白さを。伸ばした髪のその艶を、そうして、ここで日日を、憂鬱に、たった一人過ごしている、私のことを。ああ、あの人は、きっと帰ってこない。
(070330)
タイトルを「待つ」にしたら文体がだいぶ引っ張られました。うう…
お相手は一応銀時なんですが、まあ、攘夷派だったら誰でもいいです(適当)