五月だというのに、最近はもう夏であるかのような暑さだった。男子の体育では、すでにプールの授業が始まっている。風を入れるために開けている窓から、プールではしゃぐ生徒たちの声が聞こえる。その上から被さるように、先生の拡声器ごしの声。生徒たちの喧騒にまぎれて、何を言っているのかはよくわからない。時折響く、笛のピーという高い音。
周りを見ると、クラスメイトの半分くらいが、うつらうつらと舟を漕いでいた。なかには、腕に顔を伏せたり、机に突っ伏して、軽くいびきをかきながら気持ち良さそうに寝ているのもいる。銀八先生は、授業中、生徒をあてないので有名だ。
どのみち起きていても、先生の古典はわかりにくい。縦書きの白い文字が、下にいくにつれ段々と右にななめっている。その横に黄色や赤のチョークで、注意書きがしてあるけれど、順序だてて書いていないので、傍線も囲いも、謙譲語の説明も、全部がごちゃごちゃと入り混じっていて汚いし、読みにくい。
窓から差し込む、よく晴れた初夏の日差しが、銀八先生の髪の毛に反射してきらきらと光っている。「やすらはせたまふに、宮の大夫殿は、戸の前に立たせたまへれば・・・」先生が何かを言うたびに、くわえ煙草がぴょこぴょこと上下するのが、なんだかおかしい。もとはすっ、と長く、まあたらしかったチョークは、半分ほどの長さになっていた。黒板に字を書き込むとき、先生はよくチョークを折る。きっと筆圧が強いのだろう。
黒板の前を右へ左へ、行ったり来たりするとき、履き古してボロボロになった、汚れた茶色のスリッパと、くすんだ色のリノリウムの床がこすれて、キュッ、キュッと音がする。ゆったりとした銀八先生のあゆみに合わせて、不規則に、断続的に、キュッ、キュッ、キュッ・・・
黒板の、真上の壁に掛けてある時計の長針は、文字盤の「1」を指していて、さっきからあまり進んでいなかった。じっと見つめていると、こころなしか秒針も一瞬動きを止めてしまったように見えた。五時間目の、けだるい授業。時間の進みが遅い。
眠気に身を任せてしまおうと、まぶたを閉じかけたとき、頬にさらりとカーテンがかすった。吹き込んでくる、今までより少し強い風が、カーテンをひるがえし、めくって、通り抜けていく。植え込みの、名前も知らない木の、葉をざわりとさざめかせて。わたしの前髪をゆらして、前の席の子の、茶色く染まった髪をなでて。銀八先生の、頑固な癖毛を更にみだして、一瞬のうちに通り過ぎていった。
カーテンが元の位置に戻るとき、窓の向こうにわたしは見た。ビニールハウスの天窓から見える、プールに反射するかげろう。
草木を揺らす、夏のうぶごえ。







(070517)
これを銀魂小説としていいのか、わたしは今真剣に悩んでいる。