駅の構内に時刻を知らせる音楽が鳴った。夕やけが赤くて綺麗だ。ぼくは他の猫たちに挨拶をして、家に帰ることにした。




アンダーピープル



今日はぼーさんは帰ってこない。一緒に住んでる女の子は、ぼくがいてもいなくてもあんまり気にしない。でも、十二月の寒い風にさらされながら、駅で夜を過ごすのはちょっときつい。
途中ですれ違った近所のアメショにさよならと言って、ぼくはてこてこ歩いてゆく。
家のあるビルの自動ドアをくぐると、守衛さんが「お帰り、外は寒いだろう」と声をかけてきた。ぼくは、「ただいま、うん、とっても寒いよ」と答える。守衛さんにはぼくの言葉はわからないけど、別にいい。
エレベーターの近くに人がいなかったから、今日は階段を使うことにした。ビルの中は、外よりはマシだけれど、それでも結構寒かったので、大急ぎで十二階まで上がった。
アクリルの小さな扉を押して、ぼくは家の中に入る。途端に、もわっとした暖かさが体中に広がった。肉球がちょっとかゆい。
「ただいま」
とぼくは言う。返事はない。広いフロアの真ん中に置いてあるソファに近づいて、もう一度「ただいま」と言う。
毛布にくるまりながらソファに寝転んでいた女の子は、ちょっと間を開けてから、もぞもぞと動いて、「サトル」と言った。
ぼくの名前は、ほんとうは梅吉なんだけど、ぼーさんはたまにサトルって呼ぶ。でも、この女の子は、梅吉なんて呼ばないで、いつもサトルって呼ぶ。
なんでだろうって思うんだけど、「そっちの方がしっくりくる」らしい。ぼくにはよくわからない。
「お腹すいたの」
女の子がそう訊く。ぼくは、「うん、ちょっと」と応える。
女の子は毛布をどかして、ソファから立ち上がった。ぼくは空いたソファに飛びのって、まだ体温の残る毛布の上に転がった。
あの子は、ちょっと不思議な女の子なんだ。ぼくの言葉ははっきりとはわからないんだけど、ぼくの考えてることはなんとなくわかるんだって。
半年くらい前に、仕事帰りのぼーさんと一緒に家にきた。ぼーさんみたいに笑ったり、怒ったり、驚いたりあせったりしないから、最初は少し怖かった。
今はもう怖くないけど。
このあいだ、ぼーさんにそのことを言ったら、そうか、って言われた。そのときのぼーさんの顔が、なんだか寂しそうだったから、それ以来その話はしてない。
あの女の子が、悪い子じゃないってことは、一緒に暮らしてればわかったから。
ことりと、床にご飯が置かれる。ぼくはありがとうと言って、ソファから降りた。
女の子は、ソファにもう一度座ってテレビをつけた。ちょうどドラマがやってたらしい。ドラマなんて見るのはひさしぶりだ。(ぼーさんはほとんど音楽番組しか見ない)
主人公らしい女の人が泣いてる。どうやら、恋人が亡くなったらしい。ぼくもなんだか悲しい気分になった。
「かわいそうだね」
ぼくはそう言った。女の子が、ぼくを見た。いつもと変わらない静かな目をしてた。
「サトル」
ぼくの名前を呼んだ声は、まるで何にも感じてないみたいだった。なんでかわからないけど、ぼくにはそれが悲しい。
「あんたって、私なんかよりよっぽど人間らしいね」
そう言った女の子の声は、やっぱり何にも感じてないみたいだった。


へ や の な い ま ど











(071214)
すいません!すいません!でも正直この話が書きたいがために同居設定にしました!
もとになった例の話はさわりの部分しか読んだことがないのですが、ついやってしまいました。
ホント申し訳ない。
・・・どなたか中庭同盟お持ちの方いらっしゃいませんか。欲求不満で頭がおかしくなりそうです。
『ウルフ探偵のおかしな事件』(三田村信行)